2014年12月18日木曜日

詩 「ピエロの懺悔」

三石博行

岩本拓郎作(2014年12月9日)

































岩本拓郎氏のフェイスブック
https://www.facebook.com/takurou.iwamoto.73?pnref=story

岩本拓郎氏の幻想的な絵を観ながら、また蟻塚亮二氏の「沖縄戦争体験を語る 毒おむすびをわたされた」(琉球新報)「沖縄4区仲里さんの戦争体験。日本兵が毒おにぎり。仲里さんはもと県議会議長、自民党の重鎮」の記事をを読みながら


「ピエロの懺悔」

**** 1 ****

腐葉土にまみれた石灰岩の上を
弾丸が飛び交う
爆弾がさく裂する

古代の珊瑚の洞窟は、最新兵器に囲まれて
もう、逃げるところはない

必死に兵士は身を隠し
息をひそめ
必死に母親は子供を抱え
身を縮める

ここは地獄の入り口だ
ここは現世に最後の場所だ

それでも洞窟は、
やさしく兵士や親子を呑み込んで
恐怖の冷気を入れまいと
恐怖の外光を入れまいと
腐葉土のドアを閉める

それでも、
子供の泣き声が
恐怖の静寂の奥底から
地獄の闇の中から
浸み出してくる

それでも
子供の泣き声は
母親の厚い手のひらから
抱きしめた腕から
洞窟の闇の中に漏れ出す


**** 2 ****

兵士は怖かった
この子供の泣き声が怖かった
洞窟の外に人声が漏れるのが怖かった

容赦なく投げ込まれる手榴弾が怖かった
火炎放射器から飛び出すベトベトの熱炎が怖かった

だから、母親に
毒入りのおむすびを渡し
言ったのだ。

国の命令だ、食べさせろ
軍の命令だ、食べさせろ

毒入りのおむすびは母親の手に渡われた
洞窟の無言の同意もと一緒に渡された

恐怖に慄く洞窟で
人々の目は修羅の如く光り
母親の目には修羅の真っ赤な血がながれた

洞窟の中で圧縮された重い空気の下で
母親の手はおむすびを固く握りしめ
もうすぐ死ぬ自分
もうすぐ死ぬ子供
美味しい毒入りのおむすび
それらの関係式を解こうと
していた

そして、
子供はおむすびをみるや
それを手にして食べた
それは最後の晩餐だった。
それは最後の母からの贈り物だった


**** 3 ****

子供は息絶えた

母親も息絶え
何万の沖縄の民も息絶えた

この世の地獄を見ながら
息絶えた

何万の兵士達も
息絶えた

それでも私は生き残り

毒入りおむすびは
人々の記憶から消え去った

しかし、
私の記憶には
毒入りおむすび
死んでいった親子
奪われた幼い命が
鮮明に現われて

しかし
私の記憶には
母親の悲痛な叫び
青酸炎症に苦しむ幼子の叫び
悪魔と化した兵士の私
昨日のように現われる

流れ出る
悪魔の懺悔の涙

許されることのない
罪悪の顔面を
ピエロ姿の化粧で私は隠し

薄く淡い光の
ピエロの仮面をかぶり

ピエロ色の笑顔の下に
悪魔は懺悔の涙を私は流す


**** 4 ****

敗戦の日に
決まって言われることば

お国のために
貴方は戦った
勇敢な兵士

しかし、
戦禍の犠牲を前にして
死んだ兵士を弔うために

兵士たちの勇敢さや愛国精神を
語るな

彼らの悲惨な現実と無念さを語れ

彼らは
誰のために死んだのか
何のために戦ったか

侵略と殺戮の
歴史の汚名を
引き受けた
無名戦士の墓に

戦争賛美や
愛国心の花束はいらないのだ

再び侵略と殺戮の戦争をしない
平和への祈りを捧げよ

再び、殺戮の現場に若者を送ってはならない
再び、人殺しを正当化した戦場に若者を送ってはならない

2014年12月13日


三石博行詩集 『心象色彩の館』

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