2012年11月15日木曜日

立法機能を担う議員活動を支える制度の提案

政治改革の課題(5)

三石博行


政権与党にのみ蓄積される官僚との友好な関係

政党とは政治的理念を持ち、それに基づき政策を国民に示し、選挙を通じてそれらの政策への賛同を求める活動を行う集団である。

議会制民主主義では、選挙で多数の議席を確保する政権が政権与党となり、議院内閣制度に基づき内閣を作る。内閣とは国家の行政機能のトップであり、各省の大臣が内閣を構成する。大臣は政権が国民に選挙を通じて公約した政策を実行するための政治・政策活動を行うことになる。

議会制民主主義議と議院内閣制度では、政策を実行出来る政党は内閣を担う政権与党のみとなる。勿論、野党の議員も議員立法案の提出をすることは出来る。政権与党は政策提案を行う場合、政府機関の専門家集団(官僚)の助言や援助を得られる。その点で政権与党は政府機能を挙げて政策を提案できるのである。

政治指導を確立するためには政治家が政府機関の専門家(官僚)と十分に政策検討を出来る機会を多く作らなければならないだろう。与党の政治家は閣僚として行政のリーダーとなる。行政を運営する責任を議員は担うことになる。その意味で、行政機関の専門家(官僚)と共に行政運営をスムーズに行うことが求められる。そこで、政権与党の議員には政府機関の専門家集団の助言や援助の機会が与えられる。彼らが政策提案や法案を作成する場合には政府機関の専門家集団の力を十分活用することが出来る。

その意味で、長年政権の座にあった自民党は官僚機構との大きなパイプがあり、人的な交流も豊かで、しかも官僚との共同作業の経験も豊富にある。自民党が政権を取ることで、政治は官僚機能との有効で濃密な関係を維持することができる。また、自民党には官僚出身の議員も多く、以前の部署との人間関係や仕事上の経験を活かし、政策提案段階から官僚の有能な資源を十分活用できた(る)のである。



民主党が目指した政策決定における脱官僚指導型、政治指導型の挫折

しかし、長年野党時代を過ごした政治家には、官僚機構との人的交流もなければ、政策提案への官僚の協力関係もないのである。そのため、民主主義のルールとして政権交代が行われた時、長年与党時代を過ごした政党は国家の行政機能の資源を十分活用できない状態となる。

しかも今回、民主党政権は、政権交代を行った段階で、政治指導を確立するためにと、官僚を政策決定の中心から外した。そのために、官僚からの厳しい反発とボイコットを受けた。これまでの行政機能に関する経験や人脈のない民主党の政治家は官僚の協力なくしては、政権運営が出来ないことを思い知らされることになる。そうして、再び、官僚が政策決定に大きな影響力を発揮し、民主党の政治指導は完全に失敗した。

そこで、政治指導の路線を修正した民主党は、これまで自民党が続けてきた官僚の指導型の政策決定路線に戻った。その結果、コンクリートから人への政治は、再び人からコンクリートへと変更されたようである。また、官僚指導型による国民の税金から支払われた震災復興予算の不明な使い方が、報道機関に指摘され、行政の事業仕分け作業で人気を集めた民主党の行政機能点検機能がマヒしていることも明らかになった。あの事業仕分け作業は選挙のためのパフォーマンスであったかとも言われる始末である。

明らかに民主党政権は多くの失敗を行った。しかし、この失敗をどのようにして乗り越えるか。そこにこの国の民主主義の未来が掛かっているように思う。その課題の一つとして、行政機能と立法機能の相互連携について考えてみたい。



すべての議員に与えられた行政機能活用に関する権限

議会制民主主義で最も大切なことは、国民主権代理者である議員が立法作業仕事を行う環境を与えられていることである。法律案を作成するには、問題に関する現状の調査データ、法や制度上の問題に関する専門的な知識、解釈、分析等々、多くの事柄を理解しなければならない。

しかし、野党議員には政府専門機関を十分に活用できる環境がない。そのため野党議員が法案を作成する場合、政府専門機関からの支援や援助が十分受けられないことになる。野党議員は議員立法案を作成するために大変な作業をこなさなければならない。つまり、野党議員と与党議員はフェアーな立場に立って法案作成を行っていないと言える。

言い換えると、国民の代表としての議員に権限の不平等が生じていることになる。そのこと自体が国民主権国家の基本に反する状況であると言える。早急に、この問題を解決することが、政策政党による政治が成立する環境を作ることになる。それが政党政治の成立のための政策であるとも言える。

すべての議員は国民から選ばれた国民主権の代理人である。その意味で、国会議員の立場からすれば、すべての議員は平等に国民の代理人としての資格を持っていることになる。それが議会制民主主義の制度で成立している議員の位置づけである。与党や野党とはそれらの議員達の集団が多数を占めるかそうでないかということに過ぎない。議会制民主主義では与党に政権運営の権限を与えるのであるが、政府機能の活用を与党が独占する権限を与えてはいない。つまり、すべての議員が政府機能を平等に使えるのである。これが国民主権を前提にした議会制民主主義の制度の原則である。

従って、野党の議員にも与党の議員と同じように、官僚との交流、政策検討に関する助言や資料提供を受ける権限を与え、与党の議員と同じ情報や資料に基づいた政策検討が出来るようにしなければならない。

特に、数年毎に政権交代が行われる時代になる場合には、野党や与党を問わず、議員達が十分に政策検討を行えるように政府機関の専門家の活用を保障しなければならない。この制度が現在十分に機能していないなら、即刻、その制度の法的や制度的確立を急ぐべきである。

野党時代から官僚との関係を作れない日本の政治環境では、民主主義の基本である政権交代が行われる毎に政府機能が混乱することになる。政権与党は、国の専門機関の協力なしには、行政機能を運営管理し改革する力量を持ちえない。それが今回の民主党政権で明らかになった。この経験を今後は活かすべきである。



成熟した議会制民主主義のための議員への行政サービスや情報公開制度に関する提案

行政改革の課題として、立法機能を担う議員活動のために、すべての議員に平等に行政機能を活用できるための制度や法律を整備しなければならない。その目的は立法作業での政治指導(議員の力量)を確立するためには、野党時代でも議員は政策提案を行うために官僚を活用する権限を与える必要がある。

何故なら、民主主義社会では、常に政権交代が行われることを前提にして議員の政策提案力や行政改革力、官僚との関係を政権与党だけでなく、野党の時代から構築することを保障しなければならないからである。つまり、野党であろうと与党であろうと、政策提案が出来る能力を持つ必要がある。そのためには、野党議員にも官僚との関係、人的関係、情報提供、等々を保障しなければならない。

行政の機能を改善するためには、野党与党を問わず、その課題について同じような問題意識を持つ必要がある。その前提条件として、与党野党の全てに問題を理解するための情報の共有が必要であり、また共通する問題点の理解や解釈が必要となる。その意味で、行政機能は与野党議員に平等に情報やサポートを行うべきである。それが効率の高い立法機能を作る要素となるのである。

以下、そのための提案を記載する。

1、 すべての議員は国の行政機能が所有する情報(政府が機密と定めた軍事や外交に関する情報を除く)を知る権利を持つ。

2、 すべての議員は平等に、政策分析、法案や制度改革案の作成に必要な情報や助言及び必要なサポートを行政機関から受ける権利を持つ。

3、 すべての議員は、行政機関から得た情報や活用したサービスを国会に報告する義務がある。

4、 上記した行政サービス機能に関する法律を設定する。

5、 その法律に基づき行政機能がすべての議員に対して義務を果たしていることを点検するための監視委員会を第三者機関として設置する。

以上である。



参考資料

1、三石博行 ブログ文書集「国民運動としての政治改革」
http://mitsuishi.blogspot.jp/2011/06/blog-post_9428.html

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