2012年8月11日土曜日

国民を思うこころを持つ官僚育成が必要

官僚・行政機能と政治機能の改革
官僚指導から政治指導への変革はどのように可能か(2) 


三石博行


国民をおもう官僚を生み出す制度


百五十年の間、日本の近代と現代の日本の姿を創り出してきた有能な機関、日本の官僚制度の改革は、その形成の歴史的時間と同じくらいの時間が必要とされても不思議ではない。言換えると、日本の官僚制度改革は、百五十年間の歴史の厚みを理解し、その制度の強靭さを前提にした政治指導型の形成プログラムが必要であると言える。

つまり、明治の近代国家を形成する過程でも、有能な官僚達が政治家と共にこの国と国民の利益のために生命を掛けて働いた。そうした「こころ」を持つ人材を得ることが利権集団化した官僚組織からの脱却の第一歩である。どの国でも、有能な官僚は国家の宝であり、有能な官僚なくして国家運営は出来ない。今、日本の官僚に不足しているものは、専門的知識ではない。「国民を思うこころ」である。この国民を思うこころを持つ官僚をどのようにして育成するかを真剣に考えなければならない。

日本近代化は、義務教育制度を確立し国民教育の底上げを行い。また、国家が教育費を負担した国公立の高等学校、専門学校、大学等を設置し、有能な人材を国民全体から得ることで、可能になった。これからの日本社会は、知的に有能な人材のみでなく、国民のために尽くすこころをもった人材が必要である。そうした人材は、これまで日本が培ってきた知的資源を確保するための人材育成機能の在り方では不可能である。

社会活動家の採用

1980年代フランスに滞在していた頃、フランスは政府指導型の発展途上国援助の失敗を反省し、NGOの国際支援活動に政府が支援する方向に政策転換を行っていた。その時同時に、政府は有能なNGO活動家を外務省の役人に採用していた。フランスはナポレオンの時代から有能な官僚による中央集権制度を確立してきた。その官僚養成所が、フランス国立行政学院 École nationale d'administration、(一般にENA、エナと呼ばれる)である。丁度、東京大学法学部のようなもので、そこから多くの官僚が出る。ENAは困難な入学試験を通った学生が学ぶフランスの最高学府、グランゼコール ( Grandes Ecoles )である。フランスの官僚達もエリート校の出身者達である。そのエリート達の中に、ボランティア活動をしながら発展徐国支援を続けた若者を入れるのである。彼らには外交を担う「こころ」があり、「勇気」があるからだ。フランス外交の強かさとフランス外務省の採用基準には明らかに関係があることを知るべきだろう。

役人の素質を問うなら、有能さは当然必要な能力であるが、同じように「国民を思うこころ」や「困難な状況に立ち向かう勇気」という能力が必要である。幕末に幕府の神戸海軍操練所を設立した勝海舟が、海舟の私塾、神戸海軍塾に、倒幕の志士坂本竜馬達を採用したように、勝海舟は幕府エリートでなく、国のために命をかける志士達を次の国の担い手にしようとした。日本にも、こころと勇気を持つ人事を飛び級で国家の担い手に採用した歴史(現代のフランスに劣らない)があった。

現在、政府は有能な地方行政の役人、有名な例として室蘭の町おこしをした地方公務員を中央官庁の役人に抜擢し、彼は地方自治体の町おこしのために働いている。つまり、現在の政府も、国民の生活、社会の発展を願うこころを持つ人材を活用しているのである。しかし、その枠は、国家上級試験に合格して採用される人々に比べて、殆ど比較にならないほど、少ない。殆ど例外としての採用枠でしかない。

有能な人材の公募採用

豊かな経験とこころを持つ人材を採用する傾向は、最近、広まりつつある。例えば、橋本徹大阪市長は、今まで大阪市の役人のポストであった大阪市の区長を公募した。さらに、小中学校の校長をも公募している。橋本氏は社会改革の能率を上げるために必要な第一歩、人材を選ぶことを行った。多分、彼は、社会改革の原動力は人であるという考えに基づき、よりその意思とそれを実行できる経験や知識をもつ人々を採用することが、社会改革の第一歩であると信じている。そして、文字通り、それを実行した。彼自身がその人材の最初の一人であることを自覚していたからである。まさしく、ここに改革のための正しい戦略と戦術があると言える。

これからの日本、高度な経済成長を終え、成熟した民主主義国家として、豊かな生活文化環境を維持し、豊かな生態環境資源を活用し、非常に公共意識の高い、また非常に教育レベルの高い国家、日本と日本国民の将来のために働く官僚の採用基準、育成方法、採用方法を徹底的に議論しなければならないだろう。それらの経験は、幕末の勝海舟、現在の官庁での特別枠採用、大阪での区長や校長公募制度によって積み重ねられて来た経験を活かし発展させようとすることで可能になるだろう。

管首相の民主党政権の時代にも、東京の上野公園に集まるホームレス支援をしていたNPOの活動家の提案を取り入れ、職安と生活保護との窓口一本化の行政改革を行った。つまり、民主党政権は、国民の人権や豊かな生活環境の形成にこころを配ることのできる人々を活用した行政改革の実績を持っているのである。その実績をさらに展開する制度を構築する必要があるのだと思う。

民間シンクタンクや高等教育研究機関との人材交流

同じように、日本では有能な人材は企業や民間のシンクタンク、さらに高等教育研究機関に存在している。それは日本が高度な知識社会、科学技術文明社会であるからだ。若者の半数以上、八割近くが高校卒業後、何らかの高等教育機関、専門学校、大学等で学んでいる。つまり、この国には、非常に多くの高等教育機関があり、それを担う人材、教員研究者がいる。また、企業も高度な知的生産を行い、研究機関を持っている。さらには、知的生産に特化した企業、シンクタンクも多くある。これらの専門機関の人材を政府は活用する必要がある。

つまり、政策決定のための調査機能を政府官庁機関を中心とした委員会から、広く民間の専門集団を集め、その人材を活用すべきであろう。政府委員会の人脈が官僚指導型になっていることを改めて、学会への委託を行うことで、第三者の意見を広く集めることができる。

人材を採用方法の変革のための提案

上記したことを箇条書きにしてみる。

1、 官僚、国家のシンクタンク機能、専門家の質の高さを維持することは国家にとって大切である。

2、 官僚の質の高さとは、彼らの専門的知識の高さだけでなく、彼らが国民のために献身的に働くことを自分の任務として理解している「こころ」を持っていることも含まれる。
 
  3、 上記の二つの要素を持つ官僚、つまり優秀な官僚を育成することは国家にとって極めて重要な課題である。日本では、1の課題を満たすためのシステムは十分に確立している。しかし、2の課題を育てるためのシステムが十分であるとは言えない。つまり、災害ボランティア、人権運動家、市民運動家、国際支援運動家等々で活躍する人材を役人として採用し、そのノウハウを活かす。つまり、ボランティア活動を支援する行政専門官を育てる。

4、 広く民間企業、シンクタンク、高等教育研究機関の人材を政府委員会に起用し、政策決定や執行のために活用するシステムを創る。また、同時に官庁役人とそれらの機関との人的交流を行い、人材資源の質をつねに向上させる制度を創る。




引用、参考資料

三石博行 ブログ文書集「国民運動としての政治改革」

「国民運動としての政治改革」の目次(案)

はじめに
1. 政治は何のために
2. 政治活動とは何か
3. 国民運動としての政治改革の可能性
4. 官僚・行政機能と政治機能の改革
5、市民民主主義社会形成のための政治家の役割
6. 地方分権と草の根民主主義社会の形成について


2012年8月15日 誤字修正
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2012年8月12日 修正

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