2012年3月28日水曜日

多様化する現代社会の市民運動を構成する要因とは何か

時代や社会文化に規定された生活問題の解決行為としの社会活動

三石博行


庶民の非日常的社会行為と日常的社会行為

市民運動、その起源はおそらく人類が社会という制度を創った時から始まったのではないかと思われる。市民運動という呼び方は現代的な呼び方、つまり市民社会を前提にした大衆活動の呼び方である。市民社会が成立する以前は、階級制度の中で支配階級でなかった人々、つまり庶民の集団としての社会活動を現代風に言えば市民運動(庶民運動)と呼ぶことも可能かもしれない。

庶民の日常的な生活活動とは、まず生産活動である。例えば農林漁畜産業などの第一次産業や加工業、商業や場合によっては余暇娯楽産業等々の生産活動に従事していることである。さらに家事、育児、教育、地域社会(共同体)の維持、安全や危機管理活動(防災や防犯活動)、秩序維持(共同体の倫理や規範の維持)等々が考えられる。一つにまとめて言うと、社会共同体システムの維持活動である。

この庶民の日常生活を庶民運動(市民運動)とは直接に呼ぶことはない。では、庶民生活活動と庶民運動(社会運動)との差異はどこで生じているのだろうか。生活活動とは日常的な生活状態の維持、大きな要素としては共同体(種族)保存と個人(個体)保存の活動が挙げられる。生きるために必要な衣食住の環境を保全維持すること。さらに社会や個人がより豊かな生活環境(衣食住文化環境)を保全維持することなどが考えられるだろう。

生活活動はある一定の形態(習慣)を維持して営まれる。習慣に束縛された生活様式をここでは生活活動の惰性態と考える。それに対して、庶民運動はそれらの日常性のリズムから飛び出た生活活動となる。例えば祭りなどがそうである。祭りは日常的な生活リズムと異なる非日常的な生活様式を与える。例えば、現代社会を例に取ることは出来ないが、少なくとも古い社会では、子供や女性が夜に出歩くことや食事以外の時間に食べ物を口にすることは日常生活様式からはみ出た行為であっただろう。こうした日常生活の枠を超えて行為が認められる状態を例えば「祭り」と呼んでいた。

非日常性は日常性を前提にして成立している。言い換えると欲望を抑え続ける日常性が無い限り、欲望を解き放す非日常性の意味は失われる。祭り的な非日常性が日常化している現代社会では、古い時代の祭りは意味を持たなくなる。伝統的な祭りが衰退する原因は、現代社会ではその祭りが担った社会的機能の意味が失われてしまったからである。

庶民の日常生活に対して庶民の非日常的な活動は一つは祭りに代表される。社会の伝統や共同体の習慣として認可された非日常的行動、これらの行動の日程は予め日常生活の中にセットされている。しかし、庶民活動の中には、こうした体制化されていない非日常的な活動が存在していた。多くの場合、それらの活動は日常性(惰性態)と対峙した行為として位置付けられているように思える。古い社会であれば、反乱、一揆などがその典型的な例であったと思える。

祭りと一揆、この二つの非日常的行為は、一方が日常性の中でプログラム化されていた非日常性であり、もう一方が日常性を破壊(脱構築)し再建(再構築)するための行為であると言えるだろう。一揆に代表される行為を非日常的な庶民活動と考えれば、その活動は日常的に生じている生活環境の障害や問題を解決するために庶民が否応なく選択した社会的行為であると理解できる。


政治、経済、生活文化様式に規定される社会運動

過去も現在も庶民は日常的な手段によって解決できない生活問題に対してその解決を行うために活動する。それを総じて社会運動と呼ぶことが出来る。その意味で社会運動は過去の奴隷の反乱、農民の一揆、労働者達の抗議、市民活動に至るまで、人類の歴史の中に常に存在しつづけて生活者の生活環境(社会問題)に対する問題解決のための場合によっては緊急なまた温和な対応と呼ばれる多様な姿を持つと言える。

言い換えると、社会運動は時代や歴史、それらの生活文化環境によって特徴付けられ、過去から現代まで、生活活動の一つの存在形態(非日常的生活行為)として存在してきたし、存在し続けるものであると言える。そのことを、社会運動は歴史的・社会・文化的性格をもっていると北川隆吉氏は述べている。(TAITos04A pp17-18)

社会的な生活環境(社会)問題に対する解決を目的として人々が行動を起こすことを社会運動と呼んでいる。社会運動は「理念、思想体系、イデオロギーといったレベルの動因から」導かれるものではなく、庶民(大衆)の社会・生活問題の解決のために、庶民が中心となり活動する行為である。(TAITos04A p19)

つまり全ての歴史がそこに生きた人々によって創られているなら、社会運動はそれらの時代、社会や文化的特徴を反映したものとなる。社会運動の形態は社会の政治体制、生産、生活や文化様式に規定されると北川隆吉氏は述べている。


多様化する現代社会の社会運動の四つのパターン

時代や社会文化を背景にして成立する社会運動の歴史を振り返り、大ざっぱであるが言えることは、過去から現代にかけて、社会運動の多様性が増大しているという傾向である。生活経済や文化環境が時代と共に変化し、つまり古代から現代まで生活環境は豊かになり、それだけに個々人の生活様式の自由度は大きくなった。そして同時に、このことがより豊かな生活環境を求める動因となる。豊かな時代によって生活問題が解決したのではなく、別の種類の生活問題が発生し続けてきたのである。(YAGIma 01A) 

極論すると、現代社会の生活問題は過去のどの時代にも存在しなかったものが含まれる。その生活問題こそ、時代と共に、また社会発展と共に多様化していく社会の在り方を物語る。そしてその問題解決のために常に時代と共に新しい社会運動が創り出されていくのである。

現在の日本社会の多様な社会運動を西城戸誠氏は大きく四つに分類した。一つは「抗議をする」社会運動でイラクやアフガニスタンなどの反戦平和運動や3.11東電福島第一原発事故以後特に広がりを見せている脱原発国民投票や原発再稼働を巡る住民投票の要求運動である。

二つ目は「議会に代表者をだす」社会運動である。ドイツの緑の党がその代表例であるが、日本でも福島の事故以来、みどりの未来が支援する地方議会の議員の選挙運動が取り組まれてきた。議会に代表をだす代理人運動として生活クラブ生協の運動や神奈川県逗子市の池子米軍住宅建設反対市民運動の例を西城氏は引用している。

三つ目は「事業をする」社会運動の代表は生活協同組合や安全食品消費者運動である。また、住宅福祉サービス、介護サービスや集合託児・出張託児などの福祉分野のサービスなどが挙げられている。

最後の四つ目は「自分や他者を助ける」社会運動として、例えば断酒会のようなアルコール依存症者たちが集まりアルコール依存から抜け出すための活動を行う会がある。「ボランティアから反戦デモまで社会運動の目標と組織形態(西城戸誠)」(OOHhi 04A pp77-93)


多様化する現代社会の社会運動を構成する二つの要素

西城氏の現代社会の社会運動の四つの分類は、Kreiesiの社会運動に関する分類方法を援用して導かれたものである。つまり、社会運動の成果の還元方法と社会活動への参画の方法という二つの大きな要素によって社会運動のパターンを分類した。

例えば、共同の目的や利害に対して人々が共同して行動する集合行為によって得られる利益(成果)を運動組織に還元するのか、それとも社会システム全体(行政などの組織)に還元するのかという二つの極を持つ縦軸と行動主体(生活者)が社会的問題解決のために直接に行為に参加するかそうでないかという二つの極を持つ横軸の交差によって生じた四つの区分から導かれている。つまり、図表1に示すように、この基本要素の組み合わせによって四つのパターンが生じることになる。

四つの区分を具体的に記述すると、以下のようになる。

つまり、一つは社会運動構成員が社会改革の組織に直接参加しないで、構成員の利益を優先する運動のパターンである。前記した「事業をする社会運動」で、構成員は直接生活に関係する課題を取り上げて運動をしている場合が多く、運動が具体的な生活改善の目標を持ち、運動成果は具体的な生活上の利益として具体的に評価されるものである。消費者運動がその典型である。消費者の権利を守る市民運動によって生活協同組合が組織され、生協サービス組織が生まれ、安全安心の食品を消費者は購入することができる。また、医療生活協同組合によって、安心できる医療サービスを受けることができる。

二つ目は前記した「自分や他者を助ける」社会運動で、社会運動構成員が社会改革(生活環境の改革)の組織や運動に直接参加し、そしてその運動の成果を直接、運動に参画した人々、つまり自分たちが得ることを目的にしている。運動構成員が運動の成果(利益)を共有することを目的にしている「自助・利他的活動型」の運動形態を取っている。具体的事例は、前記したように断酒会に代表される。最近ではいじめ、自閉症やうつ病に苦しむ人々が共に集まり自分たちの経験を話し合い、共にその苦しみを分かち合い、助け合う「自助・利他的活動型」の活動が行われている。

さらに三つ目は、社会運動構成員が社会変革の組織に直接参加しない運動形態、つまり改革運動に直接に参画しないものであり、しかもその運動の成果は運動構成員の利益を目指すのでなく、社会全体の利益を重視する立場を取る。例えば、運動構成はその社会運動が訴える課題を議会で話し合い、法案を提案する議員を推薦する社会運動を展開する。これを「代表性政治型の運動」と呼んでいる。この運動は、前記した「議会に代表者をだす社会運動」と呼ばれたものである。例えば社会福祉政策、環境問題、人権問題などを課題にしている社会運動で、これらの社会理念や具体的社会政策を社会制度化するための議員(運動の代理人)を選挙運動を通じて議会に送っている。

最後の四つ目は構成員が直接参加するがしかし構成の利益でなく社会システムの利益を重視するする政治的社会運動組織型である。前記した「抗議をする」社会運動がその代表例である。社会問題の解決を訴える市民はその問題解決をデモや集会、または署名運動等で直接に訴える。しかし、その問題解決を具体的に実行する社会機能に参画することはない。抗議活動に同調する議員が議会で問題解決のための作業、例えば法律や条例の作成提案を行い、議会でそれを成立させる等々の活動が行われることになる。その意味で西城氏はこの社会運動のパターンを「政治的社会運動組織型」と呼んだ。

以上、西城氏が述べたこれらの四つの区分を図表1に示す。

図表1 社会運動に関わる組織の一覧(西城戸誠)

引用 「ボランティアから反戦デモまで社会運動の目標と組織形態(西城戸誠)」

現代社会の多様化する社会運動を理解するために、この西城氏の社会運動の分類方法は極めて興味深いものであると言える。



引用、参考資料

(TAITos 4A) 帯刀治 北川隆吉 編著『社会運動研究入門 社会運動研究の理論と技法 社会学研究シリーズ 理論と技法 13』 文化書房博文社 2004年12月10日 297p

(OOHhi 04A) 大畑裕嗣(おおはたひろし)、成元哲(そんうおんちょる)、道場親信(みちばちかのぶ)、樋口直人編 『社会運動の社会学』有斐閣選書 2004年4月30日、311p

(TSUBmi 11A) 坪郷実 中村圭介 『新しい公共と市民活動・労働運動 講座現代の社会政策5』 明石書店 2011年9月20日、233p

(YAGIma 01A) 矢島正見編著『新版 生活問題の社会学』 学文社 2001年4月10日 227p

(MATSma 93A) 松岡昌則 他著 『現代日本の生活問題』 中央法規出版株式会社 1993年4月10日、 220p

(1) Kriesi,H. 1996 “The Organizational Struture of New Social Movements in a Political Context” D.McCarthy and M.N.Zald eds. Comparative Pespectives on Social Movements : Political Opportunities , Mobilizing Strucures, and Cultural Framings, Cambridge : Cambridge University Press.

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関連ブログ文書集

三石博行 ブログ文書集「福島原発事故から立ちあがる市民」

三石博行 ブログ文書集「国際社会の中の日本 -国際化する日本の社会文化-」


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ブログ文書集「市民運動論」

この文章はブログ文書集「市民運動論」序文として書かれたものである。

三石博行 ブログ文書集「市民運動論」


2012年3月29日 文章一部変更(追加)
2012年4月3日 誤字修正
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