2011年10月18日火曜日

NPO太陽光発電所ネットワーク(PV-Net)の「再生可能エネルギー促進法」施行後のあり方について

NPO市民運動の課題(2)


三石博行


環境問題への意識の高い人々の集まりとしてのPV-Net

2011年8月28日 NPO太陽光発電所ネットワーク関西地域連絡会の第一回交流会が大阪市内で開催され、交流会の参加者は約30名であった。現在、PV-Netの関西地域の会員は約200名、全国の会員は約2000名である。私はこの会に2009年に参加した。

NPO太陽光発電所ネットワーク(PV-Net)は2003年に結成された。当時は太陽光発電用のパネル設置に対して少しだけ国からの補助金が出されていた。しかし、作った電気は電力会社から安く買われていた。その料金が見直されたのは2010年になってからである。採算の合わない太陽光パネルへの出資をしたとしても自然エネルギー(太陽光)を活用することが環境保護に少なくとも意義を持つと感じている人々がこの会を作り、これらの人々は太陽光発電所をより多く作る運動を行ってきたのである。

この会は現在進行しつつある地球温暖化や原発事故による地球規模の環境破壊の原因である私たちの生活や経済活動を支えるエネルギーを出来る限り再生可能な自然エネルギーに依存することを課題にしている。そして、各家庭に太陽光発電所を設置するとうい些細な力を集め、そのネットワーク(太陽光発電所ネットワーク)を創り、それらの太陽光発電所の発展と維持のための活動を行うことを課題にしている。


PV-Netの黎明期の終焉としての国家の「再生可能エネルギー促進」政策への転換

3.11の東日本大震災と東電福島第一原発事故は災害に強い日本社会の構築や原子力発電所の安全性を問い掛けている。そして、今後の日本経済の基本課題としてのエネルギー政策の変換を求めている。その第一歩として「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」、通称「再生可能エネルギー促進法」が制定された。この法律については、多くの課題が指摘されているが、これまでの原発依存型の社会から脱却するための一歩を日本社会が踏み出したと言える。

そして同時に、この日本社会の変化は、これまで太陽光発電所のネットワークを創ってきたPV- Netの在り方をも問い掛けているように思える。何故なら、再生可能エネルギー促進を積極的に勧める社会では、太陽光発電所を設置する経済的メリットが法律によって保障される。そのため、太陽光発電所を設置する人々が急増してゆくだろう。これらの人々の意識は、太陽光発電所を先駆的に設置したPV-Netの創始者達とは異なり、太陽光発電を行うことの経済的メリットを前提にして、投資活動の一環として太陽光発電を行うことになる。

勿論、経済的メリットを度外視して太陽光発電を行ってきたPV-Net形成の黎明期を担う先駆的な人々も、「再生可能エネルギー促進法」によって発電料金が上がり、高価な投資が回収されることを願っているし、国のエネルギー政策の変換を歓迎している。このためにこそ、これまでの自分たちの活動があったと自負しているのである。

と同時に、今後、太陽光発電を行うことの経済的メリットを前提にして太陽光発電施設の設置に投資する多くの人々を、PV- Netの組織に参加してもらうことが、現在の市民運動型のPV-Netの人々の課題となるのである。国が積極的に再生可能エネルギーを活用する政策を打ち出すことによって、今までのように環境問題への意識の高い人々の集まりを前提にしたPV- Netの活動スタイルが、逆説ではあるが、変更を余儀なくさせられるのである。このことに気付く必要がある。これが今までのPV- Netを組織運営してきた黎明期の時代と発展期の時代の境界に横たわる問題であると言える。


再生エネルギー生産政策とPV-Netの課題

換言すると、市民運動体から事業集団としてのPV- Netの変換が問われていると言える。これまで環境問題への関心・太陽光発電所設置から経済的メリットへの関心・環境問題への関心と経済メリットの両立を課題にする市民運動・事業団体への変換を自覚的にPV-Netの組織と運動が取り組まなければならないことになる。

この変換を意識的に行うことが、これからの時代の波にPV- Netが社会的存在意義を示すことが出来るのかを試されていると言える。その変換期での対応次第で、PV-Netの組織と運動の存在意義が発展展開するか、それとも消滅していくか、の方向が決定されることになる。言い方を変えれば、社会全体の環境意識や国家の自然エネルギー活用政策の登場は、PV- Netの存在意義の喪失につながっているとも解釈できるのである。

つまり、国家が本腰を入れて再生可能エネルギー生産を奨励し、その対策を積極的に推進する時代になることによって、逆に、市民運動としてのPV- Netの存在理由が失われるため、今までの環境問題に対する高い意識を持つ人々によって形成され展開してきた市民運動体としてのPV-Netのあり方から、経済的メリットを前提にして太陽光発電を設置する人々の要請にあった大衆的な利益保護機能を持つ組織への変換が必要となるのである。この組織の展開を行うことによって、PV-Netの今後の社会的存在意味が再編構築されるか、それともその存在意義が消失するかの選択を社会から受けることになる。つまり、PV-Net等の環境保護運動によって導かれる再生可能なエネルギー生産を促進する社会システムは、その創始者達を逆に淘汰選択し、次の段階に進化した組織や運動のみを存続させるのである。

再生可能エネルギーを中心として社会経済システムを再構築しようとする社会では、自然エネルギーの活用を社会全体が大衆的に、また生活経済活動の一環として行うことになる。それをPV- Netの運動は望んでいた。その社会経済システムの構築を目指して活動してきた。つまり、PV- Netをはじめ環境保護運動の成果として、再生可能エネルギー社会が実現されようとしている。そうであれば、当然、PV- Netは次世代(再生可能エネルギー生産消費・コンシューマー社会)をリードしていく組織となるべきであろう。この方向性を見出すために、PV- Netに参画するという組織運営上の課題、つまり今までの市民運動論的視点から、NPO型社会経済活動的視点を取り入れた方向を模索しなければならない。


NPOへの組織転換のための課題

2011年8月28日に開催された第一回関西地域交流会の全体交流会やその後の意見交換で話し合われた課題について、PV-Net.KA(NPO太陽光発電所関西地域交流会)事務局長の岸本康子さんが纏め、今後の関西地域交流会の組織や運動の方向を提案した。その概略を説明すると、PV-Net関西連絡会の組織機能を大きく3つに分類している。一つは事務局体制、二つ目は各府県世話人会、三つ目は課題別研究会の提案である。

A,事務局体制の検討

市民運動の事務局は、活発な人々の奉仕活動によって支えられている。PV-Netの活動も例外でなく、現在、岸本康子さんが運営する国際学園を拠点とし、物質的、人的両面において岸本康子さんに支えられながら活動している。こうした活動スタイルはある少数の人々の無償の努力の上に成り立っている。その意味で、市民運動のスタイルを維持し、NPOつまり、事業体の経営スタイルを未だに所有していないとも言える。そして、活発な中心人物を失うことで、この活動が中断するという可能性を持っている。その意味で、決して持続可能な運営体ではない。

運動体では事務局と呼ばれる機能は、NPO・非営利事業体では実務を担う部署である。つまり、以下にしめす、業務を担う。

1、会員へのニュース配信 
2、世話人会の意見交換
3、全体交流会、イベント
4、会計(財務)
5、PV-Net本部との意見交換、総会参加
6、会員募集等の資料作成
7、事業計画等の企画や提案の収集と意見交換の場の設定
8、遂行事業の管理

これまで市民運動体では、個人が奉仕的に事務局作業を担ってきたが、NPOでは、その考え方を改めて、有給の事務局員によって作業が担われることになる。NPOである以上、組織運営のための経営活動が前提となる。そして、理事はその意味でこれらのNPOの運営上の責任者、つまり企業で言えば役員であり、経営上の責任を持つことになる。


B,各府県交流会とその世話人(会)

PV-Net.KAの活動は会員の主体的な参画によって運営されてきた。組織的な司令によって活動する運動体でなく、地域的なグループによって、PV-Netの趣旨に即した独自の活動が寄り集まった運動体を目指している。そのため、PV-Net.KA では事務局はそのサポート役であると位置付けられていた。この考えはPV-Netの原則であり、今後もこの考えの上に、PV-Net.KA.は活動を続けるだろう。

つまり、活発な各府県世話人会の活動が存在し、地域社会に根づく市民活動・太陽光発電所ネットワークを展開し、地域社会が再生可能エネルギー社会に発展進化するために活動する。これが結成から今日に至るまでの一貫したこのPV-Netの基調であり、NPO活動としての存在理由なのである。PV-Net.KA(関西地域交流会)は和歌山県を除くすべての府県に地域交流会が組織されている。これらの大阪、兵庫、京都、滋賀と奈良の会には会員の活動をサポートするための世話人がおり、その世話人の集まりが世話人会である。

今後に課題として、これらのPV-Net.KA.の府県交流会の活動を活発にするための、世話人会の役割について議論する必要がある。


C,課題別研究会

特に注目したいのは課題別研究会の提案である。この課題別研究会は岸本康子さんから四つ提案されている。

C1,環境・教育・文化・PRとその事業化の研究
この研究会の課題は、PV-Net.KA として、環境問題やエネルギー問題の関心を高めるための活動について検討することである。学校教育へのボランティア授業、講演会、他の団体との協同イベントへの参画等が考えられる。特に、教育に従事した(教育活動のスキルを持った)会員に積極的に参画してもらい、学校でのボランティア授業や教員への教育サポートを行う活動である。

C2,行政・地域社会システム、コンサルタントとその事業化に関する研究
この研究会の活動は、再生可能エネルギー促進法案が成立し運営されるこれからの社会経済システムでPV-Netの役割を検討することである。特に、企業、公共団体や行政が太陽光発電所を設定する場合、その運営に関する助言、メンテの相談や請負作業等が生じると思われる。それらをPV-Net.KA のビジネスとして展開し、Bの各府県世話人会が担うための運営や組織に関する研究を行う。

C3,PVのハード面・診断・相談とその事業化に関する研究
この研究会のテーマは、PV-Net会員へのサービスをビジネス化しようとするものある。特に、PV-Netには、電気や建築関係の技術スキルを持つ会員がおり、事業を行っている場合もある。それらの会員達がPV-Netの事業に参画し、自らの事業とPV-Netの事業の共同・協働化を図り、より多くの会員を獲得し、また会員へのサービスを事業化するための検討を行う。
特に、こうしたPV-Netの事業は地域密着型が前提となるため、また、PV-Net の理念に基づく事業化を展開するために、各府県の世話人会が担える事業組織化を展開する必要がある。こした、地域密着型の事業の運営組織上の課題を研究する必要がある。
また、この課題は、上記したC2の課題、行政・地域社会システム、コンサルタントとその事業化に強く関係している。そのためにも、PV-Net.KA として太陽光発電所設置やメンテナンスの技術者を確保しなければならない。その場合、それらの技術者には会の趣旨を理解してもらう必要がある。その意味で、会員がそれを担うようにC3の課題を運営する組織を作る必要がある。

C4、再生可能エネルギービジョンとその事業化に関する研究
この研究会では、PV-Netの基本趣旨(基調)を国家や地方社会の政策に展開するための課題を検討する。例えば、再生可能エネルギー促進法案の施行に伴なう、課題を分析し、その改善案を提案し、他の再生可能エネルギー事業団体との交流を企画し、再生可能エネルギーですべての社会経済システムが運営される未来社会のためのビジョン、政策提案、イベント等を企画する。その意味で、上記した事業、C1の環境・教育・文化・PRとその事業化やC2の行政・地域社会システム、コンサルタントとその事業化課題と関連することになる。


NPOへの組織転換のための戦略

PV-Netの今後の課題は、一言で言うなら、市民運動体からのNPO事業体への脱却である。そこで、市民運動体的体質を強く持つNPOの今後に課題について考える必要がある。

1、 NPO化によって事業中心主義が生まれ、市民運動体の良さ、利点を失う可能性はないか。
2、 行政からの要請を受ける、事業を展開しなければならないが、逆に、行政のサービス機関の下請けになる恐れはないか。
3、 経営上の利益配分を賃金や役員報酬にしないことがNPOの運営上の規則である。しかし、事務局員への報酬、会員や役員の活動費、研究会活動への資金等々の財政が確保されなければならない。NPO経営のスキルと技術を身に付けなければならない。

簡単に以上の課題を指摘しておく。そして、これらの課題の解決は、上記した市民運動体から市民事業運動体への発展、つまりNPOへの組織転換によって具体的に得られるだろう。それ以外に、解決の方法はないように思える。

そして、常に、市民運動体がNPO化への進化過程で問われる課題は、
1、 物理的(科学的)に発電効率に関する問題は解決しているのか
2、 経済的(経営的)に太陽光発電の導入は成り立っているのか
3、 社会的視点から太陽光発電による効果があるか。つまり、再生可能エネルギー社会化に対するインパクトや効果はあるか。
4、 倫理的視点から太陽光発電所設置の運営、再生可能エネルギー社会への努力は評価されているか。
以上四つである。


参考資料

1、三石博行 現代社会のニーズに答えるための市民運動のNPO化
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/09/npo.html

2、PV-Netホームページ
http://www.greenenergy.jp/

3、PV-Net関西地域交流会ホームページ
http://kansai.greenenergy.jp/



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東日本大震災関連ブログ文書集

1、ブログ文書集「原発事故が日本社会に問いかけている課題」目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/06/blog-post_3562.html

2、ブログ文書集「東日本大震災の復旧・復興のために 震災に強い社会建設を目指して」の目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/03/blog-post_23.html

3、ブログ文書集「日本の政治改革への提言」の目次
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/06/blog-post_9428.html


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2011年10月20日 誤字訂正

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