2011年1月13日木曜日

「テキスト批評」書き方実例紹介

三石博行

河野哲也著書『レポート・論文の書き方入門』を活用した「テキスト批評」書き方実例紹介


はじめに

河野哲也著 『レポート・論文の書き方入門』の「2章 テキスト評価という訓練法」 pp13-29を資料(資料1)にしながら、テキスト批評、つまりテキストの要約、批判的分析と課題をまとめる。

この作業は、選択した資料が課題に関する記述を行っている訳であるが、それに対して、大学の一般教育課程の科目で求められるレポート作成の材料としてのテキスト批評のあり方を示す。

つまり、この資料自体が、レポート作成の材料としてのテキスト批評の書き方を示したものである。特に、資料1ではこの教材の参考に活用した河野哲也著『レポート・論文の書き方入門』「2章 テキスト評価という訓練法」pp13-29の文書にこの教材の著者(三石博行)が、要点と思われる文書の箇所に線を入れ、またそれらの要点の文脈全体をテキストへの入線箇所に数字を入れることでまとめた。

教材著者(三石博行)と資料1の著者(河野哲也)とはテキスト評価の仕方が異なるのであるが、まずは、第一節で河野哲也氏のテキスト評価の方法を忠実に要約した。そして、第二節で、河野氏の提示した展開を批判的に展開活用しながら、この教材著者三石博行のテキスト評価の方法を述べた。

テキスト批評がグループ学習用の材料として活用することが河野氏の提案であった。学部学生の教養教育科目で、専門的なテキスト批評作業は不可能であるが、短いテキストを選びテキスト批評作業を簡素化することで可能になるかもしれない。その課題もここで検討したい。

この文章は長いですので、読むのは大変だと思いますが、河野氏が「第2章 テキスト評価という訓練法」を活用しながら、そのテキスト批評を行うという作業ですので、言わば、資料を読むことによって、テキスト批評の方法を学び、その資料を活用してテキスト批評をした教材(この文章)を読むことで、さらに、テキスト批評の仕方を復習するという作業になります。


第一節 資料説明と文献コード化の方法


1-a、テキスト批評用の出典を示す

1、著者名 河野哲也 現在 立教大学教育学科教授 ( Wikipedia )
http://ja.wikipedia.org/wiki/

2、著書名 『レポート・論文の書き方入門』 第3版の中の
「第2章 テキスト評価という訓練法」 pp.13-29(13頁から29頁まで)
 
3、出版社 慶應義塾大学出版会

4、出版年月日 1997年8月8日 初版発行

5、著書形態 A5形式 116p.(B5の大きさで、本文116頁数の本)

6、コメント 著者はベルギーのUniversité Catholique Louvain ルーヴァンカトリック大学の博士課程を修了、哲学博士号を取得、専門は哲学、倫理学と言語論や表現教育である。


1-b、出典表示の方法

三石式 文献資料のコード化

三石式 文献コード化では河野哲也 (Kouno Tetsuya) 著書『レポート・論文の書き方入門』 第3版 1997年初版は、(KOUNte 97A) となる。

著者名のコード化(KOUNte)であるが、河野は姓であるので 大文字で KOUN、一般にはじめの3文字から4文字を取り出す。そして、哲也は名であるので、小文字を使い te 一般にはじめの1文字から2文字を取り出す。その結果、著者名コードは(KOUNte)となる。

出版年度のコート化は、この著書の出版年月日は1997年7月であるので年度表示を97とし、年度のコード化は(97)する。

また、文献の種類の表示であるが、著書の場合と論文の場合を分けるために、著書の場合は大文字のABCを使い、一年間に三冊の出版がある場合には 例えば97A, 97B,97Cとなる。また、論文の場合は小文字abcを使い、一年間に5本の論文がある場合には、それぞれ、例えば 97a, 97b, 97c, 97d, 97eとなる。

年度の表現は 2000年からは 2000年が00、2001年は01となる。つまり、2010年は10となる。その年度表現と上記した同年度に出版された文献数とその種類別表示を一緒にして、例えば1997年に出版された第一冊目の本は(97A)と表現することになる。

上記の手順と決まりを前提にして、著者名、出版年度、論文形態と著書形態、同年度の出版の数が表記されたコード、(KOUNte 97A)が生まれる。

しかし、この文献コード表現では、1950年の論文は50となり、2050年の論文も50となるので、文献は100年間の期間が限度となる。



第二節 資料要約の方法とその具体例


2-a、要約の方法

1、 資料 『レポート・論文の書き方入門』の中の「2章 テキスト評価という訓練法」 pp13-29(13ページから29ページまで)の内容の要約をまとめる。上記の文献コード名で示すと、(KOUNte 97A pp.13-29)と表示される。

2、 活用資料は 分析資料の各節毎に行う。

3、 資料作成では 引用文章は「 」で囲み、必ずテキストの頁を最後に付ける。そして、引用資料のページ数の記入も行う。つまり、テキストの19から20頁の文を引用するなら、引用した文章の跡に、(KOUNte 97A pp.19-20)と記入する。


2-b、要約例(KOUNte 97A pp.14-29)


2-1、「テキスト批評とは何か?」(KOUNte 97A p.14)

著者は、テキスト分析、評価や解釈の方法を文学研究で行われてきた文献注釈の手法「テキスト批評」から説明している。

つまり「テキスト批評は、文学的著作の注釈として始まった」(KOUNte 97A p.14)もので、「文学書を読んで … 分析的に解説して、その著作の魅力や豊かさを最大限引き出そうとする努力」(同上 p.14)方法である。

この「テキスト批評は、テキストを批判的に検討する能力を養うと同時に、… レポートや論文を書くためのよい準備や訓練と」(同上 p.14)となる。

「現在では、著者の主張を批判的に検討する読解・解釈の仕方として、文学専攻にとどまらず、人文・社会科学のさまざまな分野で採用」(同上 p.14)されている。


2-2、「なぜ本(テキスト)を読むのか?」(KOUNte 97A pp.15-16)

「人文・社会科学系の分野では、過去の重要な著作をテキスト(教科書)として講読(こうどく)することが不可欠」(同上 p.15)である。何故なら「古典と呼ばれているものは、単に古き良き教養を身につけるために読むのでなく、そこに表れている著者の現実の捉え方、ものの見方を学ぶためにある」(同上 p.16)と著者は述べている。

その哲学的な意味に触れ、著者は「事実そのものは、知識や理論とは独立に存在」(同上 p.15)しておらず「事実(=情報)は、それを受けつけるための知識や理論(=プログラム)を前提にして」(同上 p.15)成立していると述べている。

例えば、自然科学の観測では、「観測装置や実験装置は、そうした知識や仮説に基づいて製作され」(同上 p.15)ており、「事実は、知識や理論が与えてくれる現実の捉え方やものの見方と相関して」(同上 p.15)いるのである。つまり、観測された世界とは認識プログラムによって解釈された世界を意味する。「事実を捉えるためのプログラムを自分に与える」(同上 p.16)ことによって、世界の見方は変化して行く。プログラムとは世界を解釈する理論であると著者は考えている。言い換えると、「理論と呼ばれるものは、この事実の捉え方を抽象化・体系化したもの」(同上 p.16)である。

つまり、テキスト(例えば古典)を読むことによって、テキストに書かれている知識を身につけることだけでなく、今や古典とよばれるテキストの展開、分析を助ける「現実の捉え方、ものの見方を学ぶ」(同上 p.16)ためである。テキストを読解する作業で、理論と呼ばれる「事実を捉えるためのプログラム」(理論、言い換えると現実を理解するための方法)(同上 p.16)を身につけることが大切な課題となる。

そして、理論(著者がテキストの中で示す世界の見方の方法)を使って、「本当にうまく事態が理解できるのか」(同上 p.16)、言い換えると「問題が解決できるのか」(同上 p.16)、テキストで示されなかった「別の問題」(同上 p.16)にも解決能力を発揮しているのか、その理論の汎用性を点検することが課題になる。

最終的に、著者が提示した理論や「主張をさまざまな問題や事例に適用しながら検討していく」(同上 p.16)作業(テキスト批評)によって「問題意識やテーマ設定能力を養う」(同上 p.16)ことが可能になるのである。これがテキスト批評を行う最終的な目的であると言える。
その意味で、「テキスト批評は、知識の習得と、自分独自のテーマ・問題の発見を橋渡しする訓練」(同上 p.16)である。


2-3、「テキスト批評の仕方」(KOUNte 97A pp.17-28)


2-3-1、テキストについて

テキスト批評をはじめて行う学生に以下の3点の具体的な著者提案を述べる。
1、数ページから多くても十ページまでのテキストを選ぶ。

2、ゼミで、数人のグループを作り共通するテキストを講読しゼミの議論に活用する。

3、その場合、一人が担当する課題は一節が適量となる。

4、議論を活発にするために、専門分野によって「定評あるオピニオン誌の論文」(同上 p.17)や政策論題や価値論題など明らかな主張を持つ新聞社説や主張の明らかなテキストを選ぶとよい。


2-3-2、(テキスト批評)全体の構成

上記した数ページのテキストの批評の場合には「A4のレポート用紙に2-3枚程度」(同上 p.17)、「十ページの場合には、4-6枚程度が目安」となる。

著者は、ゼミで議論を行うことを前提にした全体の構成を以下5つ部分に分けた。

1、目的を提示する。

2、要約を書く。

3、問題の提起を行う。

4、議論を行う

5、まとめを行う

以上示した1から5までの構成要素に関する具体的な説明を行う。
1で示したテキスト批評で書くべき文章である「目的の提示」は「5-10行ほど」が適当な分量である。その内容は、まず「どんなテーマのテキストについての批評(コメンタリー)なのか、当該部分で著者がどんな議論をしているかごく大まかに説明する」(同上pp.18-19)ことである。

2で示したテキストの要約は、「テキストの丸写し」でなく(同上p.20)、「著者の主張を自分なりに」(同上p.20)まとめながら、「テキストの順を追って、原著者の主張を把握し、理解することに努め」る。(同上p.20) テキストの「各文段(パラグラフ)を、こくみじかく、1-2行程度の一文に要約」する。(同上p.20) そして、「テキスト中の重要な用語、歴史的人物、事件などについては説明を与え、テキスト理解に役立つと思われる解説を入れる」(同上p.18)。さらに、テキスト「要約箇所がテキスト上のどの部分に該当するのか、」「出典を明示するため」に(同上 p.21)、テキスト批評文には忠実に引用テキスト名と「ページ数を丸カッコの中に入れて示しておくこと」である。(同上 p.21) 最後に、テキスト批評の要約は「全体の30-40%ほど」の分量で書くのが良い。

3で示したテキスト批評を構成する「問題の提起」であるが、これが「テキスト批評で一番重要」な部分であり、「批評全体の成否はここで決まって」しまう。テキスト批評での問題の提起とは「著者の主張のうち」「自分で関心を持った主張」や「中心的・重要と思われる点を1-2点ピック・アップ」(同上p.18)(同上p.22)し、その「理由や根拠を示」しながら「原著者の主張について、疑問、是認(ぜにん)、反論(ないし批判)を行」う。(同上pp.22-23)この問題提起は、テキスト批評文の「全体の10-20%ほど」の分量を占めるのがよいと著者は述べている。

4で示した議論とは、上記した3の問題の提起を行う作業を意味している。問題提起した課題に関して「自分の主張を論理的・実証的に裏づけ」(同上p.18)ながら「議論を展開する」(同上p.18)ことが求められる。この議論の進め方(書き方)は、議論の仕方を学ぶ方法としてディベートを行うが、必ずしも賛成と反論の立場を明確にして行うディベート方式でなく、「ディベート(討論)で用いられる質問・尋問(じんもん)や反論の方法」(同上p.23)をテキスト批評の議論に応用することが出来る。つまり、この議論に関する課題は、上記した「テキストについて」で示したが、ゼミ形式で共通するテキストを使い、数人のグループを作り講読しながらテキスト批評を行う作業(議論)について、理解しなければならない方法や作業内容が述べられている。

著者は議論を構成する四つの要素を述べている。一つは、ある前提、根拠や推論から成り立っている著者の主張である。二つ目は、その主張の展開を構成する問題提起である。三つ目が、その問題提起に対して否定的や肯定的な推論(結論)に対する反論を示すことである。そして四つ目は、それらの反論(反証)を通じながら著者の考えに対する自分の主張を述べることである。テキストで述べられている著者の主張に対して、自分の主張を述べることが議論の課題であり、その目的である。つまり、自分の主張が「議論」での結論となる。

このテキストでは結論を導くために、三つの論理的展開の方法を示している。一つ目は、「反論-否定的結論」型(同上p.26)と呼ばれるもので、「著者の主張を批判し…否定的な結論にまとめる」ものである。著者の考えに疑問を投掛け反論するやり方である。もう一つ目は、「反論-代案の提示」型(同上p.26)と呼ばれるもので、一つ目のように単に反論に終わらす、「自分の代案を提示」(同上p.26)するやり方である。三つ目は、反論というよりテキスト著者の主張を限定的に了解し、それを補足する代案を提案するやり方で、「著者の主張の限定-補足・代案の提示」(同上p.27)と呼ばれている。最後の四つ目は、テキスト著者の主張を肯定し、さらに「ありえる反論に対して再反論しながら肯定するために」(同上p.27)著者の論理や主張に補足を加える方法である。

以上、テキスト批評の最も大切な課題である議論に関する文書は、この批評「全体の30-40%ほど」(同上p.18)の分量を占めることがよいと著者は述べている。以上が議論に関する要約内容である。

最後に、5で示した「まとめ」について、このテキスト批評の「最後に、これまでの全内容を手短にまとめる」、「とくに、著者の主張のピック・アップからの」テキスト文脈の「流れを考慮しながら、自分のコメントを要約」することが述べられている。そして、まとめで「新たな議論を展開」するように注意している。(同上p.28)つまり、まとめとは「あくまで要約や整理に徹して」(同上p.28)書くことであると述べられている。そして、この「まとめ」に費やされる文書の分量は「全体の30-40%ほど」(同上p.18)が適量であると述べられている。


2-4 「テキスト批評の効果」

著者は、このテキスト批評の書き方の説明を「大学のゼミナールで行うことを想定して」行なった。「この批評を日常的に繰り返し行うことで、テキストを批判的に検討することや、卒業論文などのテーマ・問題を設定する際に役立つこと」(同上p.29)を述べた。

このテキスト批評は共通のテキストを用いて行われるグループ学習や議論のために具体的な方法が示されたのであるが、「卒業論文のテーマに関係する著作や論文について」も(同上p.29)、このテキスト批評のやり方で、分析、批判、評価や解釈を行うことが必要となる。それらのテキスト批評を参考にしながら、自分の課題を展開し、検証することが可能になる。

その意味で、このテキスト批評の延長線上に「レポートや論文」があることを理解しなければならない。



第三節 資料(テキスト)の批判評価・解釈と方法と具体例

3-a、テキスト批評の書き方 解釈の方法

今回のテキスト批評の方法を学ぶための材料に、河野哲也著 『レポート・論文の書き方入門』「2章 テキスト評価という訓練法」pp13-29を活用した。このテキストの要約を第二章にまとめた。要約は著者のテキストに忠実に行った。

つまり、河野哲也氏によるテキスト批評の方法は、第1の目的を提示する(目的提示)、第2の要約、第3の問題提起、第4の議論と最後のまとめから構成されていたテキストに即して要約を行った。

このテキスト批評の要約から著者河野哲也氏のテキスト批評の書き方に関する考えが明確に理解できる。前節の要約を基にしながら、テキスト批評者のテキストの分析、解釈、批判的評価を述べる。

この節、テキストの分析、批判的評価に関する展開は、前節のテキストの文脈に従う必要はなく、テキスト批評者(この資料では三石博行)が展開したい課題に即して、書くことが出来る。そうすることで、批評者の意見が明確に伝わるのである。


3-b、批評(批判的分析と解釈)の書き方の例

3-b-1、学部教養科目や教養専門科目のレポート作成材料としてテキスト批評の目的

テキスト批評の資料(河野哲也著『レポート・論文の書き方入門』「2章 テキスト評価という訓練法」 pp13-29)で、著者はこのテキスト批評の作業目的に関して以下のように述べている。
一つは、河野氏がテキスト批評で目指す課題は、テキストで書かれている知識を理解するだけでなく、理論を批判的に点検、理解することによってその理論が現実の問題を解決する能力を持っているかを検証できるのである。

つまり、テキストを通じて理論を学習することは「著者の現実の捉え方をいったん理解したうえで、そのやり方(プログラム)で、本当にうまく事態が理解できるか(情報を整理できるか)、問題が解決できるか(期待されるアウトプットができるか)、別の問題にはどのように対処するのか(汎用性があるか)、など著者の主張をさまざまな問題や事例に適用しながら検討していくことこそが、問題意識やテーマ設定能力を養う」(KOUNte 97A p.16)ことにある。

テキストの要約や解釈、問題提起を行うテキスト批評は、人文社会科学の研究で伝統的に行われていた文献注釈の作業が基本になっている( )。そのため文献注釈(訳注)の作業で厳密に行われる論文批評を基にして、テキスト批評の理論が河野氏によって述べられた。しかし、この専門性の高いテキスト批評の課題を、この教養科目のレポートで要求することは困難である。つまり、河野氏が述べる理論の点検や検証作業を教養教育科目のレポート作成作業の課題に含めることは難しい。

ここで課題にしているテキスト批評は、学術論文の注釈で行う人間社会学の諸理論の批評解釈を行うためのものではない。むしろ、学部の教養科目や専門教養科目でレポートを作成するために必要な材料となる文献や資料の批評を行うためのものである。したがって、このテキスト批評に用いる材料は、古典と呼ばれるテキストではない。むしろ、それぞれの教養科目に関連する本や資料である。


3-b-2、テキスト批評の三つの主要な構成要素と「参考資料」

河野氏がテキスト批評作業を提示したのは、卒業論文や研究論文を書くためである。また、ゼミなどで共通した教材を活用し、それを分析、解釈や批判をしながら、グループ(ゼミ)での討論に役立てるためであった。

そこで河野氏は、ゼミで議論することを前提にして、テキスト批評の5つ構成要素を述べた。つまり、第1のテキスト批評の目的提示、第2のテキスト要約、第3のテキスト批判、つまりテキスト要約を通じて提起される問題群、第4は第3の問題提起された課題に対する議論である。その議論もこれまでのディベートの方法を活用することが提案されている。最後はテキスト全体の要約を簡潔に「まとめる」ことである。

このテキスト批評の中で最も重要な課題とされる問題提起とその議論の箇所は、ゼミでのグループ学習で、異なる意見を取り出して討論するディベート方式の学習に活用される。そのために河野氏は、議論を進めるための三つの論理的展開方法が提示されていた。

つまり、その三つの論理的展開とは、「反論-否定的結論」型、「反論-代案の提示」型、「著者の主張の限定-補足・代案の提示」型と「ありえる反論に対して再反論しながらテキストの理論を肯定するために著者の論理や主張に補足を加える方法、「主張-肯定的補足・代案の提示」である。

この議論のための三つの論理に関する知識は、グループ学習やディベートを取り入れた学習では非常に役立つ。しかし、我々の学部の教養科目や教養専門科目でのテキスト批評の書き方に関しては、ディベート方式のグループ学習を行うスキルを求めることは現実的に困難である。簡単なテキスト批評を基にして行うグループ学習に関しては次節で述べることにする。

そこで、河野氏の議論の内容を簡略することで、主に三つの構成要素、出典紹介、テキスト要約と解釈・批評からなるテキスト批評の書き方を提案する。しかし、その三つの構成要素を簡単に補足するものとして「はじめに」と「まとめ」の二つの要素を加えることが出来る。その意味では、我々の提案するテキスト批評の書き方も河野氏の提案するそれと同じく、五つの要素からなると表現していいだろう。

まず、主な三つの構成要素を説明する。一つはテキストの出典を正確に示すこと、書き方はこの教材の第一節に具体的に示されている。二つ目はテキストの文書に忠実に要約すること、書き方はこの教材の第二節に具体的にテキストとして選んだ 河野哲也著『レポート・論文の書き方入門』の「2章 テキスト評価という訓練法」の文脈にそって、その文章を引用しながら要約を書いている。また引用された文のテキストの箇所を文献コードを使いながら示している。三つ目はその要約の内容を批判的に検討し、問題提起しながら自らの考えやアイデアを展開すること、書き方はこの教材の第三節の文章となる。

つまりテキスト批評の書き方で重要な要点は、テキストに関する情報を正確に示し、そのテキストの著者が述べている内容を正確に理解し、それに基づいて自分の視点から批判、解釈や自分の考えを展開することである。この三つの作業が最もテキスト批評の中で重要とされるものである。

さらに、第三節を書くために、もし参考にした資料があるならそれらの資料の出典を記名しておく必要がある。それが「参考資料」である。参考資料や文献の紹介はテキスト批評の最後に持ってくる。


3-b-3、「まとめ」や「はじめに」の書き方

テキスト批評を提出しなければならない場合、この批評を第三者に読んでもらわなくてならない。そのために、批評文の「まとめ」と批評文を書くにあったて述べなければならない「はじめに」を付け加える必要がある。

しかし、テキスト評価は提出する必要がなく、その目的が単にレポートや論文の作成作業の中で文献や資料に関する分析や批判的評価の記録であれば、主要なテキスト批評の構成要素のみが必要であり、「はじめ」や「まとめ」はあえて付け加える必要はない。

まず、「まとめ」の書き方から説明する。「まとめ」は第三節の後に書く。書く内容は、このテキスト批評の第二節の要約と第三節の問題提起を通じてテキスト全体の主な内容を簡単にまとめる。そして同時に、このテキスト批評を通じて課題になったこと、それは第三節では具体的に展開しえなかった課題で、問題点の指摘に終わるが、しかし次のテキスト評価を行うための参考となるような内容があれば書くとよい。

「はじめ」は第一節の前、つまり文章の最初にくる。もちろん目次をつける必要があれば、目次のあとになる。はじめの文章はこのテキスト批評を読む人に批評の全体構成を大まかに紹介し何を課題にしながら読むのかを伝え、また読みたい興味を誘うように書く必要がある。はじめは丁度、お菓子箱の包装紙のようなものである。美味しくて美しい京菓子が美しい箱の中に詰めてあっても、その包装紙にセンスがなければ、台無しだと思う。京菓子にふさわしい美しくてセンスある包装紙を選ぶように、「はじめ」にはテキスト批評の内容を引き立て、興味を誘うものでなければならない。

書く順番は、第一節の出典紹介、第二節の要約、第三節の批評と問題提起、そして参考資料、それから「まとめ」を書いて、最後に包装紙で作品を包むように「はじめに」を書くと良い。しかし、これらの順番が少し入れ替わったとしても問題はない。


3-b-4、テキスト批評を活用するグループ学習

河野氏が提案するテキスト批評の書き方は、グループ学習(ゼミ)の講読の方法の一つとして提案されている。そこで学部共通教育科目の中でもテキスト批評を活用するグループ学習のやり方はないか考えてみる。

テキスト批評を行う時間であるが、一般にこの作業は講義中には不可能である。なぜなら、資料をじっくり読み、その要点をつかみ、そしてまとめ、さらにそれに関して批判的に評価しなければならない。1時間30分の講義の時間を最大限活用しても、上記したテキスト評価を授業中に行うことは出来だろう。

しかし、新聞記事のような短い文章を活用するなら、可能になる。精々(せいぜい)長くてA4用紙1枚程度の社説や解説なら、要点をまとめる時間は2-30分あれば可能かもしれない。そして、その批評に関しては一つだけ選んで書くなら15分程度の時間があれば可能になる。要約と批評で長くて45分の時間が必要となれば、残りの3-40分をグループ学習に使えるかもしれない。

また、少し長い論文や著書の一節でも、テキスト評価の主な要素、要約と批評を宿題にして、それらを持ち込んで次の授業でグループ学習を可能にすることが出来る。

いずれにしても、テキスト批評の書き方はレポートや論文の作成するためには習得しておかなければならない。テキスト批評を書く機会を出来るだけ多く作りたいと思う。しかし、それらのテキスト批評を使ってレポートや論文を書くだけでなく、グループ学習の材料にすることも出来るなら、グループ内でお互いにテキスト評価の書き方をグループ学習を通じて学ぶことができるだろう。


まとめ

レポートや論文作成用の材料としての「テキスト批評」の書き方について検討してきた。テキスト批評の具体的を示すために河野哲也氏の著書『レポート・論文の書き方入門』の「2章 テキスト評価という訓練法」をテキストとして選び、そのテキスト批評を河野氏の提案に基づき行った。

テキスト批評の要約に関しては、資料1に示すように、文脈の流れから要点毎にナンバーを振り、その文章で大切な箇所に下線を入れて、要約用の資料を作る。その資料に基づきながら要約を行った。要約は正確に著者の考えをまとめる作業である。その作業が終了してから、問題提起や批判的評価(批評)を行う。これで、大枠のテキスト批評が完成する。
河野氏の提案を批判的に検討しながら、今回の課題、学部学生の共通教育科目でのテキスト批評の方法について提案を行った。

その中で、短い文書を活用しながら講義中にテキスト批評の作業を行うことが必要であることに気づいた。なぜなら、日本の学生は高校生までに、レポートを書いた経験もなければ、グループ学習でお互いの意見を戦わせた経験もない。学生がレポートの書き方を知らないのは、入学時に、大学でのノートのとり方や講義の受け方、情報の集め方、図書館の使い方、そしてレポートの書き方の基本的な大学での知的生産活動の方法を大学教育として教えていないからである。その意味で、この資料は、教科科目に直接関係はないにしても、教科科目で要請されるレポートの作成のために役立つと期待したい。

今後、所属大学の学生の現状に合わせて、学生が今後レポートや卒業論文を書くために役に立つテキスト批評の書き方を検討したい。そのためには、この資料を学生に配布し、共に活用しながら、この配布資料の問題点を点検し研究してゆきたいと考えている。



参考資料


レポートの書き方のための基礎

1、「大学でのノートの作り方」(1)
http://mitsuishi.blogspot.com/2010/11/1_24.html

2、「大学でのノートの作り方」(2)
http://mitsuishi.blogspot.com/2010/11/2.html

3、「レポート材料の作り方」について(1)
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/01/1.html

4、「レポート材料の作り方」について(2)
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/01/2.html

5、「レポート材料の作り方」について(3)
http://mitsuishi.blogspot.com/2011/01/3.html


文献を活用したテキスト批評例

6、畑村洋太郎著『決定版 失敗学の法則』第一章「失敗学の基礎知識」のテキスト批評
http://mitsuishi.blogspot.com/2010/11/blog-post_6897.html

7、姜尚中(カン・サンジュン)著『在日』プロローグのテキスト批評
http://mitsuishi.blogspot.com/2010/11/blog-post_29.html

8、菊田幸一著『日本の刑務所』第一章「受刑者はどのような存在か」のテキスト批評
http://mitsuishi.blogspot.com/2010/11/blog-post_25.html


映像資料を活用したテキスト批評例

9、NHK EV特集 「元寇蒙古襲来 三別抄と鎌倉幕府」の映像資料のテキスト批評
http://mitsuishi.blogspot.com/2010/07/blog-post_6943.html

10、NHK 朝鮮半島と日本 「倭寇(わこう)の実像を探る  東シナ海の光と影」のテキスト批評
http://mitsuishi.blogspot.com/2010/07/blog-post_2310.html

11、NHK「クローズアップ現代『犯罪“加害者”家族たちの告白』放映記録のテキスト批評
http://mitsuishi.blogspot.com/2010/06/blog-post_22.html

12、ブログ文書集「知的生産の技術 基礎編」 8章 「議論や討論の仕方、纏め方や文書化」
http://mitsuishi.blogspot.jp/2012/03/blog-post_19.html








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1 件のコメント:

職務経歴書の書き方の見本 さんのコメント...

とても魅力的な記事でした。
また遊びにきます。
ありがとうございます。