2008年1月14日月曜日

新たな世界観形成と科学の大衆化

同時代的合理主義思想の形成活動と「科学の大衆化」
La vulgarisation scientifique: une formation de la pansée rasionaliste d'une époque
三石博行

はじめに
科学の大衆化という社会現象は社会や歴史によって異なる。この科学の大衆化を必要とする社会文化の機能について議論する。つまり、新たに登場する科学や新しい合理主義思想は、過去の観念形態を一掃するための闘争を行っている。新しい合理主義の観念構造を普及活動を科学の大衆化作用と考えれば、それはあらたな社会制度や生産活動を構築する階級の社会的自我の確立運動に関連して生じる社会文化現象であると謂える。

文明や社会によって解釈多様な「科学の大衆化」の概念
科学の大衆化の概念は、「科学」と「大衆化」の二つの歴史的や文化的に多様な意味を前提にしている用語であるために、明確に一つの用語で定義することができない。
「科学」性という概念を、科学史で用いる異なる時代や文明社会での同時代的合理性と解釈すれば、科学は単数形でなく複数形で存在し、古代エジプトやメソポタミアの科学、古代中国科学、古代ギリシャ科学からアラブ科学、中世ヨーロッパの科学、近代科学、西洋科学、東洋科学等々、多様な科学の概念が成立する。そこでそれらの科学の大衆化という概念が、科学の大衆化であるといえる。例えば、古代ギリシャ科学での「大衆化」という概念になる。また、「大衆化」という概念を「通俗化」や「啓蒙教育」等々の意味として理解することも出来る。先ず、「科学の大衆化」の用語から問題にする。
フランス語で科学の大衆化をLavulgarisation scintifiqueと表現する。また英語では Popularisation of scienceと謂われる。我が国では、坂潤潤によって「科学の大衆化」という用語が始めて用いられた。この場合、科学とは近代科学を意味する。大衆化とは「通俗化」でなく科学を大衆みずからのものにすることを意味する。しかし、日本で他に使われている大衆化という概念は、戸坂潤の使った意味と同じではない

科学革命を推進する自我と科学の大衆化
「科学」を同時代の有効な知の体系として広義に解釈すれが、宗教的世界観を支える神学も中世ヨーロッパの科学と謂えた。実際、スコラ哲学や神学は中世を支配する知であり、現代の科学と同じように人々の世界観や社会の秩序、中世キリスト教社会の観念形態を決定する秩序や論理を規定していた。つまり、科学史の視点に立って「科学」を同時代的知の体系として解釈するなら、科学の概念は中世の世界観を説明するキリスト教神学、自然神学を含むことになる。また、大衆の聖書購読を目的としていたルターの聖書ドイツ語翻訳はキリスト教の教義の大衆化である。そこで、聖書のドイツ語翻訳は、「科学の大衆化」のの一例として解釈できるのである。
「科学の大衆化」を説明するために、科学史の中で一般に引用されるのは、17世紀、近代科学を生み出したガリレオの『新科学対話』の著作活動である。ガリレオは当時の学者が使用したラテン語でなく、イタリア語で『新科学対話』を書いた。また、同様に、デカルトも『方法序説』もラテン語でなく、彼の母国語フランス語で書いた。近代科学の構築に貢献した二人が、歴史に残る近代科学の形成の礎を作る理論を母国語で書き記したことは、彼らが科学の大衆化を意図して行った訳ではないが、新しい科学理論を理解し、それを有効な知として活用する人々は中世封建社会の支配者でなく、新しく勃興しようとしていた市民でありそれらの市民への理解(大衆化)を意図したものである。

新しい世界観の形成と科学の大衆化
知識はそれを背景とした世界観を持つ。知識はある世界観の一部として存在している。それを知の観念形態という。そこで、地動説のように、ある新しい知識が、過去の学説を解体することになる。過去の学説が崩れ去ることで新たな知の体系化が始まる。この新しい学説の登場を科学革命と呼ぶ。
新しい学説が登場しその学説から導かれる諸々の学説の成立、それを体系化する学問の成立、例えば物理神学から力学への変換が生じる。新しい科学や学問が成立することで、新しい自然観が生まれ、世界観が登場する。そして、自然法則を支配する世界に教会や封建領主権力の介入は一切否定されなければならない。絶対的な神が支配する法則によって、自然現象は生じているという世界観が成立することになる。これら一連の新しい科学理論の確立や新しい世界観が成立するこの過程を科学革命と呼ぶ。
新しい世界観は科学革命によって呼び起こされる。新しい科学理論、その技術的、産業的、社会的応用を必要とする人々によって、その新しい世界解釈や世界観が生み出され、展開され、発展される。それらの生産活動が、その新しい世界観に依拠する人々の社会文化意識を作り出す。さらに、新たな社会文化意識の形成によって新たな科学思考は発展する。新たな世界観をもつ階級や市民によって新たな科学は発展する。つまり、新たな科学の形成とそれを支える大衆化によって、新たな世界観とそれに依拠する生産や生活活動によって、科学革命は展開するのである。その科学革命の展開によって、人々の社会的意識が形成され、その観念形態が社会文化の基盤構造を担うことになる。
したがって、科学の大衆化は新しい世界観を必要とする社会的自我運動と結びついた人々や社会文化の現象であると言える。


参考資料
1、Baudouin Jourdant “Lavulgarisation scintifique” 1975 
2、Marie-Francoise Mortureux ”La foramation et le fonctionnement d`un discours de la vulgarisation scientifique au XVIIème siecle à traver l’oeuvre de Fontenelle” 1983、
3、Pierrre Laszlo “Lavulgarisation scintifique” Que sais-je?  1993
4、戸坂潤 「戸坂潤全集 第一巻」



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